寄稿「福島県浪江町の各世帯に貸与された放射能測定器について」


「福島県浪江町の各世帯に貸与された放射能測定器について」

公害環境対策部員 加藤 純二

(以下の原稿は仙台市医師会報に投稿し3月号掲載されたものの末尾に数行を加筆したものである。)

原発事故と浪江町
 仙台市には福島県から地震・津波と放射能汚染を避けて避難生活を送っている人々が多い。診療所の近くに住んでいるT君は、福島県浪江町に3千坪の山林を購入し、様々なキノコの栽培に取り組んでいた。平成23年3月11日午後、地震・津波が起き、15日早朝、福島第一原発の4号機と2号機で爆発が起こり、午前11時に避難指示が原発周囲30キロ内に拡大された。この日の午後、北西20キロの浪江町では毎時255~330μSV/hourの放射線量が観察された。その後、濃厚な汚染が風向きに従い、浪江町・飯館村から福島県中通り地方を中心に広がった。浪江町も飯館村も約3年たった今、ほぼ無人地帯となり、人々が営々として築いてきた生活基盤は消失したに等しいと思う。

放射能汚染の測定
 T君はその後、時々、農場を見に行くというので、放射能測定器を貸していた。小生がインターネットで購入した測定器は中国製のもので、やや値段が下がってきた頃で約6万円だった。平成24年11月1日から浪江町は町民各世帯に測定器(線量計)の貸与を始めた。翌年4月初旬、T君は町から貸与された測定器と小生が貸したものを持って、他の二人と合計4台の測定器を持って浪江町に出かけた。帰ってきて、町から貸与された測定器だけが、低い値を示したと、測定器4台を並べて撮影した写真を見せてくれた。

町貸与の測定器による値は正しいか?
 三人のうち一人は原子力関係の研究所に勤め、精密な測定器を持参し、他の2台の測定器の値はその機械の値に近かった。問題は、町配布の測定器の値である。診療所の近くに浪江町からの避難者が他におり、合計4台の町貸与の測定器を集めてくれた。そのうち1台は、「測定値が低すぎる」と使用者が町役場に申し出て、校正してもらい、やや高い値がでるようになったという測定器であった。たまたま栗原市の市民団体が市内各地の放射能測定をしており、そこに友人がいたので、浪江町の測定器の話をしたところ、栗原市内のホットスポットで条件を同じにして測定をしてみようということになった。

比較測定の結果
 平成25年8月、7台の測定器を並べて地上1メートルで20回ずつの測定を行った。場所は栗原市のホットスポットである総合グラウウンドの登り口の歩道脇である。以下に結果を示す。(m:平均値、SD:標準偏差)

測定器①:栗原市市民団体の使用機種DX-300(日本技術振興財団が貸与したもの)
 m=0.271μSV/hour  SD=0.008 μSV/hour

②最近購入の機種
 m=0.310μSV/hour  SD=0.049 μSV/hour

③小生使用機種
 m=0.294μSV/hour  SD=0.081 μSV/hour

④浪江町No.1
 m=0.128μSV/hour  SD=0.039 μSV/hour

⑤浪江町No.2
 m=0.165μSV/hour  SD=0.072 μSV/hour

⑥浪江町No.3
 m=0.192μSV/hour  SD=0.062 μSV/hour

⑦浪江町No.4 (校正済)
 m=0.242μSV/hour  SD=0.0079 μSV/hour

ジャパン・ブランド 精密博士

町が貸与した測定器の問題点
 浪江町は「測定器にはバラツキがつきものであり、依頼があれば確認・校正をする」という。しかし測定器の平均値のバラツキであれば、真の値の上下に分布するはずで、浪江町と栗原市の測定からは、町貸与の測定器が始めから低い測定値がでるように設定されていた可能性が高い。⑦は校正後も、やや低い値を示す。

 浪江町の職員は「入札により、7,700台を購入した」という。貸与の測定器の名称は「ジャパン・ブランド 精密博士」とあり、その会社のホームページには、「福島原発の事故後、放射能測定器を中国で製造・販売しており、自分は二本松出身である」とあり、町は「二本松出身ということも考慮して購入した」という。小生が原発事故後に購入した測定器③には「JB及び4桁の数字」が書かれ、これらは町貸与の機種にも書かれている。購入資金は文部科学省の補助金であるという。数値が低く出るようにしたのは、文科省か町の意向なのか、その意向を受けた業者なのか、不明である。

 現在、0.23 μSV/hour以上が除染対象となっているが、校正してない浪江町貸与の三機種では「除染対象」が「除染不要」となる。これは犯罪ではないのか。実は同様のことが各地で起きている。しかも福島県をはじめ東北各地に多数設置された大がかりなモニタリングポストも低い値を示すことが指摘されている。モニタリングポスト設置工事の入札時、低い値を示すように言われたある業者がそれに従わず、文科省は別のクレームをつけてその業者を入札から外した。その業者がいきさつをインターネットで公開し、訴訟を起こしている(毎日新聞、平成24年6月4日)。ただ今の日本では行政やマスコミ、学者たちまで、放射能汚染を軽くみせようとしており、司法にも「公正」さを期待するのは無理だと思う。しかし書き残してはおきたい。
 4月末、小生はある民間の食品放射能測定所を見学した、山菜採りの時期で、次々と山菜を持った人が来ていた。コシアブラについては山形のものも放射能に基準値以上に汚染されているという。政府や地方自治体からの情報は安全ばかり強調しているが、この測定所には真実の生の情報があった。そして測定所の有志は独自の発想で庶民の口に入る放射能汚染物質を探求し、驚くべき事実を掴みかけていた。それについてはいずれ発表されるだろう。

(平成25年5月1日、宮千代加藤内科医院)

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