シリーズ「女川原発廃炉への道」No,19


シリーズ「女川原発廃炉への道」

乳歯で原発事故の被ばくを見出す方法と最新の知見

医科・山元町 齋藤 佐

 天然のウラン鉱石を濃縮した原発の燃料Ur235や原爆の原料Ur238は、核分裂の連鎖で鉛Pb214・ヨウ素I131・セシウムCs134 やストロンチウムSr89・Sr90を生み、中性子線放出でプルトニウムPr239やCs137を生む。後者は、自然発生しないので、事故/爆発の証拠だ。これらが、呼吸/飲食で体内に入ると、β線・γ線放射で、細胞/遺伝子を損傷して、がんを誘発するので、これらの体内検出は、有害な内部被ばくの証拠だ。
 Sr90は、半減期29年で、百年以上の土壌汚染が懸念され、カルシウムと同族で、牛乳・母乳などから骨や歯に吸収され、乳歯への吸収は、主に、胎児の歯の形成期らしい。Sr90は、代謝のある骨では半減期18年だが、代謝が乏しい歯には骨より残留しやすい。日本では、大気圏内原爆実験の汚染による歯のSr90は、旧ソ連が最後に実験した1963年以降に減り(井上&山口 2013)、半減期30年のCs137と相関したが、この汚染では、半減期50日のSr89・2年のCs134は検出だった。一方、福島第1原発(1F)事故の汚染によるSr90なら、汚染地域の土壌のSr89やCs134と相関し、対照地域より多いはずだ。実際、1Fから10㌔以内で事故後3カ月のSr90は、土壌と放置された牛の形成期の歯とで相関した(Koarai K et al. 2016)。30㌔以内の土壌で、事故後2カ月のSr89・Cs134で事故の汚染が示され、Sr90は、汚染地域ではCs137と相関傾向を示したが、事故前も少量あり、事故後の増加が多くなかったので、原爆実験の汚染も残っているらしい(Sahoo SK et al. 2016)。

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 最新の論文で(Takahashi A et al. 2021)、放射能を調べた福島県に住む小児の乳歯約5千本は、事故以前に生え、2016年までに集められた。6~12歳で自然脱落した乳歯は、胎児期が2010年以前で、事故の影響が少ない陰性対照だった。実際、Sr90Cs137は対照より多くなかった。放射線量は事故後に経年増加せず、生えたあとの被ばくはなさそうだった。この放射能は、原爆実験由来らしく、今後、事故以降に生えた乳歯で事故での被ばくを見出す貴重な参照値になる。
(追記)私は、1F事故を『原子力災害』と呼ぶのは、粉飾だと思う。事故の原因は、深刻事故の対策不備という人為的なもので、自然災害は誘因に過ぎないから。

 

本稿は宮城保険医新聞2021年7月15日(1755)号に掲載しました。

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