シリーズ「女川原発廃炉への道」
原発―避難計画を前提とする電源
理事 佐藤 荘太郎
兵庫県保険医協会/協会西宮・芦屋支部がまとめた「東日本大震災・原発震災10年、そのあとに 医療・福祉・生活者の視点からの提言」というを書籍を読んだ。そのなかに小出裕章氏の「原発のない世界へ 非難し合うのでなく認めあってこそ」というタイトルの文章があった。その段落の見出しに、原子力発電所の発電が「途方もなく効率が悪い」とあったのが気になって調べてみた。
原子力発電では水蒸気タービンを廻して発電するが、タービン入り口の温度は280℃(60気圧)、出口は215℃、効率は33%である。これまでの火力発電も水蒸気タービンだが、入り口の温度は538℃(246気圧)、出口は281℃、効率は44%である。熱力学的には温度差が大きいほど効率が高いわけで、タービン入り口の温度を高めれば高めるほど効率を上げられる。最近の火力発電ではガスタービンとなり、タービン入り口の温度を1600〜1700℃に上げている。さらに水蒸気タービンのコバインド、排熱利用のコジェネで効率を60%を超えるところまで高めている。
科学者の、放射性ウランの核分裂エネルギーを取り出したい、というチャレンジを誰にも止めることはできなかった。放射性ウランの濃度を高め、核分裂を臨界の状態にまで持っていき、熱エネルギーを利用できるようにはなった。しかし結果として、プルトニウムという猛毒の放射性物質を大量に生み出すことになった。特にプルトニウム240は不安定で、自発的に臨界に達し、不完全核爆発をおこす性質を持っている。それらの処理と管理はどうにもならない。泥沼に足を取られるように、永遠に金のかかるシステムが生まれてしまった。一日も早くこの泥沼から足を洗うべきなのだが、もう出来ない。利権が生まれ、稼働するにしても、廃炉にするにしても、莫大な金がかかる。私たちの支払う電気料金は総括原価方式で計算され、原発のコストが上乗せされている。原発を稼働させればさせるほど、私たちは貧しくなるのでないのか。
間もなく10年になるが、私たちは原発の爆発事故を現実に体験させられた。原発の危険性と不合理さは、櫻井前南相馬市長の、「避難計画を前提とする電源」という言葉によく現されていると思う。
本稿は宮城保険医新聞2021年2月15日(1741)号に掲載しました。