石巻市内有床医療機関への原子力災害時広域避難計画調査から見えてきた六つの問い
公害環境対策部員 島 和雄
女川原発の立地自治体である石巻市・女川町の広域避難計画が発表されたことから、公害環境対策部では昨年11月、石巻市内の有床医療機関を対象に避難計画に関する調査を行いました。その結果を受け、9月10日、宮城県・石巻市・女川町に対して陳情を行いました。
宮城県議会議員選挙を控えた現在、そこに至るまでの経過の中で気付いたいくつかの疑問について、個人的見解にはなりますが、報告いたします。選挙後の県議会議員の方々にもご検討頂ければ幸甚です。
「新基準」には周辺・地域住人の避難に関する事項は含まれていない
原子力規制委員会で出しているいわゆる新基準は、稼働に際しての原子炉の安全性を中心に、事故防止と原発プラント内対応の観点で作られています。つまり電力事業者(民間企業)を対象とした基準(実用発電用原子炉に係る新基準)です。
一旦原発事故が起きた場合、重要となるのは周辺・地域住人の避難と事故の収束に向けた計画的対応です。しかし、新基準には地域住民に関する事項は含まれておりません。従って、原発の稼働に当たっては、実用発電用原子炉に係る新基準だけではなく、関係地域住民の防御と安全確保(=避難計画等)が確約されなければならないと考えます。
医療機関単独での責任ある避難計画立案は不可能
宮城県・石巻市・女川町(以下、「県・立地市町」と記述)等関係自治体では、女川原発過酷事故に対するガイドライン・避難計画等を提示しています。この中で、有床医療機関・介護施設等に対し「自力による避難に努め」などの文言を含め、それぞれに避難計画を作成するよう要請しています。
この件に関する保険医協会での調査で明らかになったことは、医療機関単独での実効性ある避難計画を責任もって立案することは不可能である、と言うことです。県・立地市町の提示している対原発事故のガイドライン・避難計画等は、施設も含め医療機関の自力による避難を前提に考えられていますが、懸念されるのは、原発過酷事故避難についての責任の所在です。原発過酷事故での避難の全責任は、とても医療機関だけで負い切れるものではありません。
それでは、責任の所在はどこにあるべきか。
避難計画に関する責任は県・立地自治体
原発再稼働については、宮城県・女川町・石巻市の「同意」が実質的な決断となります。つまり、原発は国策事業とは言え、県・立地市町の同意なくしてできるものではありません。従って、原発過酷事故の避難計画に関する責任は国・電力会社はもとより、県・立地市町にあると言えるのではないでしょうか。
県・立地市町は当該医療機関に対し、原発過酷事故の避難等についての「計画を作成する」よう指示をするだけでなく、綿密な調査のうえ実効性の根拠を示し、計画立案のための援助を示すべきです。ガイドライン等の提示だけで責任は全うしたことにはなりません。
保険医協会の調査から見えてきた県・立地自治体への疑義
以上のことから、宮城県・女川町・石巻市に対して持った六つの問いを以下の通り示します。
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県のガイドラインでは「医師、看護師、職員の指示・引率のもと」となっているが、現有の人員で対応可能と思われるか。可能とするならば、それは何を根拠に可能であると思われるか。(3.11東京電力福島第一原発事故時の医療法人博文会双葉病院での経験を振り返って)
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屋内退避について、「一般的に遮蔽効果や建屋の機密性が比較的高いコンクリート建屋への屋内退避が有効であることに留意」した改築をする場合の経費についての概算(モデル例)はあるか。またそこへの補助金・助成金等の予定はあるか。
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県ガイドラインでは、避難計画を立案するに当たり、「自力による避難に努め」としているが、保険医協会の調査では、回答を寄せた6件中5件で「自力による避難」はできないと答えている。もし「自力による避難」が可能とするならば、それは何を根拠に可能であると思われるか。県並びに立地自治体はこの点について(自力による避難が難しいとの連絡が入った場合は)、具体的にどのように対応することになっているのか。
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県・立地市町としては、医療機関はそれぞれの実情にあった避難計画を自己の責任で立てるべきだと言う考え方を持っていると理解して宜しいか。もしそうならば、「再稼働同意」者としての県・立地市町の責任はどのようになるのか。
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もし責任の所在が「再稼働同意」者としての県・立地市町にあるとするのならば、責任者としてガイドラインや避難計画案は充分であり、実際に実行可能であると言えるか。その根拠は何か。
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ガイドラインや避難計画案に示されている通りに行った場合、どれほどの経費がかかると見積もっての提案か。これについての試算はしてあるか。
参考資料)
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「石巻市内有床医療機関への原子力災害時広域避難計画についての調査(概要)」
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2019年9月10日提出 宮城県議会宛 「東北電力女川原子力発電所再稼働の中止を求める陳情書」
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実用発電用原子炉及び核燃料施設等に係る新規制基準について(概要) 2016年02月17日
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原子力発電所の新規制基準の策定経緯と課題 環境委員会調査室 大嶋 健志 立法と調査9 No.344(参議院事務局企画調整室編集・発行)
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原子力規制委員会の新規制基準に避難計画が含まれていないことに関する質問主意書 提出者 逢坂誠二 2016年9月30日質問第27号
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衆議院議員逢坂誠二君提出原子力規制委員会の新規制基準に避難計画が含まれていないことに関する質問に対し、別紙答弁書 内閣総理大臣安倍晋三
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11.8日経新聞朝刊記事 福島原発事故を受け、「大事故が起こった場合は運転再開について地元自治体と協議する」などと記した県や市町村との協定を無視できなくなっている。